HRTと漢方どっちがいい?|更年期治療の違いと選び方の視点

湯のみを手にして穏やかに考えごとをしている女性のイラスト

「更年期の治療にはHRT(ホルモン補充療法)と漢方があるらしいけれど、自分にはどちらが合うのだろう」。そんなふうに迷ったまま、受診の一歩を踏み出せずにいる方は少なくありません。インターネットで調べるほど情報が多く、良いことも心配なことも書かれていて、かえって決められなくなってしまう——そんな声もよく聞かれます。

ホットフラッシュ、眠れない夜、理由のわからないイライラ。毎日をこなすだけで精いっぱいなのに、そのうえ治療法まで自分で選ばなければならないと思うと、気持ちが重くなってしまいますよね。ただ、実は「どちらかを自分で決めてから病院に行く」必要はありません。最終的に治療方針を決めるのは、診察をした医師とあなたの相談によってです。

この記事では、HRTと漢方の考え方の違いを、効き方・費用・通院のしかた・向き不向きといった視点でやさしく整理します。どちらが優れているという話ではなく、「自分の場合はどこを基準に考えればいいか」がわかることをめざしています。読み終えたときに、受診の場で医師に何を伝えればよいかが見えていれば十分です。

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目次

HRTと漢方は、そもそも何がちがうの?

診察室で医師と患者が机をはさんで穏やかに話し合っているイラスト

まず、ふたつの治療の立ち位置を整理しておきましょう。どちらも更年期の不調に対して医療機関で用いられている選択肢ですが、体へのアプローチのしかたが大きく異なります。

HRT(ホルモン補充療法)=足りなくなったものを補う考え方

更年期は、卵巣のはたらきがゆるやかに低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減っていく時期です。この急な変動が、自律神経のバランスに影響してさまざまな不調につながると考えられています。HRTは、そのエストロゲンをごく少量おぎなうことで、ゆらぎをなだらかにしていこうという考え方の治療です。

飲み薬のほか、おなかや太ももに貼るパッチ剤、皮膚に塗るジェル剤など、いくつかの形があります。子宮のある方の場合は、子宮内膜を守る目的で黄体ホルモンを併用する方法がとられるのが一般的とされています。どの形を選ぶかは、体質・持病・生活スタイルなどをふまえて医師が判断します。くわしくはHRT(ホルモン補充療法)の始め方と副作用の記事でも整理しています。

漢方=体全体のバランスを整えていく考え方

一方の漢方は、「足りないものを直接おぎなう」というより、その人の体質や状態(漢方では「証(しょう)」と呼びます)に合わせて、体全体のめぐりやバランスを整えていこうとする考え方です。冷え、のぼせ、むくみ、気分の落ち込みなど、はっきりした原因が特定しにくい不調にも用いられてきました。

更年期の分野でよく名前があがるのが、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の3つです。これらは「更年期の三大処方」と紹介されることもありますが、誰にでも同じものが合うわけではなく、体質や症状の出方によって選ばれる処方は変わります。処方の特徴は更年期の漢方の種類と選び方で解説しています。

「対立するもの」ではなく「アプローチの違い」

大切なのは、HRTと漢方は敵対する治療ではないということです。医療機関では、症状の内容や体の状態を見ながら、どちらかを選ぶこともあれば、組み合わせて使うこともあります。更年期の治療全体の見取り図は更年期の治療法にはどんな種類がある?にまとめていますので、あわせて読むと全体像がつかみやすくなります。

効き方と、実感するまでの時間のちがい

「どのくらいで楽になるのか」は、多くの方が気にされる点です。ただし、ここには大きな個人差があり、「◯週間で必ずこうなる」と言い切れるものではありません。あくまで一般的な傾向として、次のような違いが説明されることが多いようです。

HRTは比較的、変化を感じやすいとされる症状がある

ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)や発汗といった、ホルモンの変動と関わりが深いと考えられている症状については、HRTのほうが比較的早く変化を感じたという声が多いとされています。とはいえ、感じ方には個人差があり、量や剤形を調整しながら様子を見ていくのが一般的です。

また、開始してすぐの時期に、不正出血や乳房の張り、軽い吐き気などが出ることがあるとされています。多くは経過とともに落ち着くとされていますが、気になる症状が出たときは自己判断でやめず、処方を受けた医療機関に相談してください。

漢方は「じわじわ整える」ことが多いとされる

漢方は、体質そのものに働きかけていく考え方のため、変化を感じるまでに数週間から数か月かかることもあるとされています。一方で、冷えやむくみ、なんとなくの不調など、「どこが悪いとは言えないけれど調子が出ない」というタイプのつらさに用いられることが多いのも特徴です。

ただし、漢方=自然由来だから何も心配がない、というわけではありません。体質に合わない場合や、まれに副作用が起こる場合もあるとされています。市販の漢方薬を試すときも、飲みはじめて体調に変化を感じたら中止して、医師や薬剤師に相談するのが安心です。

「合うかどうか」は数週間単位で見ていくもの

どちらを選んだ場合でも、1日や2日で結論が出るものではありません。多くの場合は、数週間ごとに受診しながら、症状の変化を医師と一緒に確認して、量や種類を調整していきます。つまり治療は「一度決めて終わり」ではなく、試しながら合わせていくプロセスと考えると、気持ちが少し軽くなるかもしれません。

費用と通院のしかたのちがい

待合室のベンチに静かに腰かけて順番を待つ女性のイラスト

治療を続けられるかどうかを左右するのが、お金と時間の負担です。ここは事前にイメージしておくと安心材料になります。

更年期障害と診断されれば、どちらも保険が使えることが多い

HRTも漢方(医療機関で処方される医療用漢方製剤)も、更年期障害と診断された場合には健康保険が適用されるのが一般的とされています。自由診療でしか受けられない特別な治療、というわけではありません。ただし、検査の内容やクリニックの方針によって窓口での負担は変わりますので、具体的な金額は受診先で確認するのが確実です。

なお、ドラッグストアなどで買える市販の漢方薬やサプリメントは保険の対象外で、全額自己負担になります。手軽に始められる反面、続けると費用がかさむこともあるため、長く続ける前提であれば一度医療機関で相談してみるのもひとつの方法です。

通院のペースは「はじめは少し多め」が一般的

治療を始めた直後は、体に合っているかを確認するために、比較的短い間隔での受診をすすめられることがあります。落ち着いてくれば間隔があいていくことが多いようですが、HRTを続ける場合は定期的な検診(乳がん検診や子宮の検査など)をあわせてすすめられるのが一般的とされています。

仕事や家族の予定との兼ね合いで通院が負担になりそうなときは、そのことも遠慮なく医師に伝えてかまいません。生活に無理のない形でなければ、治療そのものが続きません。

HRTが向いていると考えられる人・慎重に検討する人

ここからは、どんな場合にどちらが検討されやすいのかを見ていきます。ただし、これはあくまで一般的な考え方の整理であり、実際に適しているかどうかは診察と検査をふまえて医師が判断します。当てはまるからといって自己判断で決めないでください。

検討されやすいと考えられるケース

  • ホットフラッシュや大量の発汗など、ホルモンの変動と関わりが深いとされる症状がつらい
  • 症状が日常生活や仕事に強く影響していて、できるだけ早く手を打ちたい
  • 閉経前後の比較的早い時期で、はっきりした体の症状に困っている

慎重に検討されるとされるケース

一方で、乳がんや子宮体がんの既往がある方、血栓症の既往がある方、重い肝機能障害がある方、原因のはっきりしない不正出血がある方などは、HRTを行えない、あるいは慎重な判断が必要とされています。持病がある方や服用中の薬がある方は、受診時に必ず伝えてください。「言わなくてもいいかな」と思うような小さなことでも、判断の材料になります。

漢方が向いていると考えられる人・慎重に検討する人

湯気の立つ器と乾燥した薬草、木のさじが並ぶ静かな食卓のイラスト

漢方も同じく、「こういう場合に検討されやすい」という傾向はありますが、体質の見立てには専門的な判断が必要です。

検討されやすいと考えられるケース

  • 冷え、むくみ、頭重感など、はっきりした一つの症状というより全体的な不調がある
  • イライラや不安、気分の落ち込みといった心のゆらぎが目立つ
  • 体質や持病の関係でHRTを行いにくい、あるいはホルモンの薬に抵抗がある
  • まずは体に負担の少ない形から始めてみたいと考えている

慎重に検討されるとされるケース

漢方薬にも、飲み合わせや体質によって注意が必要なものがあります。ほかの薬を服用している場合、持病がある場合、妊娠の可能性がある場合などは、必ず医師・薬剤師に伝えてください。また「体質に合わないまま飲み続ける」ことがないよう、変化があれば早めに相談することが大切です。

なお、「漢方はゆっくりだから」と我慢して強い症状を放置してしまうのは避けたいところです。日常生活に支障が出るほどのつらさが続くときは、方針の見直しを相談してみてください。

併用はできるの?途中で変えられるの?

「一度HRTを始めたら、ずっと続けなければいけないのでは」と心配される方もいますが、そのようなことはありません。実際の診療では、次のような柔軟な進め方がとられています。

組み合わせて使われることもある

症状の内容によっては、HRTと漢方を併用する方法がとられることもあります。たとえば体の症状にはHRT、気分の波には漢方、といった形です。どのような組み合わせが適切かは、その人の状態によって異なりますので、気になる場合は「両方を使う選択肢もありますか」と尋ねてみるとよいでしょう。

途中で切り替えることもできる

しばらく続けてみて合わないと感じたときは、種類を変える、剤形を変える、別のアプローチに切り替える、といった調整が可能です。治療は「決めたら変えられない契約」ではありません。合わないと感じたら、そのことをそのまま医師に伝えるのが、いちばんの近道です。

やめるときも相談を

調子がよくなってきたときの終わり方も、自己判断ではなく医師と相談しながら決めていくのが一般的です。急にやめると症状がぶり返したように感じることもあるとされています。「そろそろやめたい」という気持ちも、遠慮せず伝えて大丈夫です。

迷ったときの決め手は「いま何に困っているか」の記録

スマートフォンでカレンダー状の記録画面を開いている手元のイラスト

ここまで読んで、「やっぱりどちらが自分に合うのかわからない」と感じた方も多いかもしれません。それでかまいません。というのも、治療を選ぶときに医師が最も知りたいのは、あなたがどの症状に、どれくらいの頻度で、どのくらい困っているかだからです。

診察室では、限られた時間の中で症状を説明しなければなりません。「なんとなく調子が悪くて…」と伝えるのと、「ほてりが週4〜5回、特に夕方に出ます。夜中に2回ほど目が覚める日が月の半分くらいあります」と伝えるのとでは、医師が受け取れる情報量がまったく違ってきます。記録があると、この差が自然に埋まります。

記録するときのコツは、完璧をめざさないことです。書けなかった日があってもかまいません。おすすめは、症状の有無を◯×で残す、強さを3段階でつける、といったごく簡単な形から始めることです。具体的な方法は更年期の症状記録のつけ方でくわしく紹介しています。また、いまの状態を点数で確認したい方はSMI(簡略更年期指数)によるセルフチェックから始めてみるのもよいでしょう。

そしてもうひとつ。記録は「治療を始めたあと」にこそ力を発揮します。HRTでも漢方でも、合っているかどうかを判断する材料は、結局のところ症状の変化だからです。始める前の状態を残しておくと、数週間後に「前より減っているのか、変わらないのか」を客観的に見比べることができます。

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受診の目安と、どこに相談すればいい?

「この程度で病院に行っていいのだろうか」とためらう方はとても多く、厚生労働省が2022年に公表した「更年期症状・障害に関する意識調査」の基本集計結果では、40代女性のうち症状を自覚しながら受診していない割合が81.7%にのぼることが示されています。つまり、迷っているのはあなただけではありません。

また、厚生労働省スマート・ライフ・プロジェクトの調査『女性の更年期に関する意識の実態』では、中等度以上の症状があっても周囲の誰にも相談したことがない方が約7割いたことが報告されています。つらさを一人で抱え込みやすいテーマだからこそ、専門家に話してみる価値があります。

相談を考えたい目安

  • 症状のせいで、仕事や家事、睡眠に支障が出ている
  • 市販薬やセルフケアを試したけれど、つらさが続いている
  • 気分の落ち込みが強く、何をしても楽しめない状態が続いている
  • 不正出血がある、いつもと違う強い症状が急に出た

つらい症状が続く場合や、急に強い症状が出た場合は、早めに医療機関へご相談ください。特に、これまでに経験のない強い頭痛や胸の痛み、意識が遠のくような感覚がある場合は、更年期かどうかの判断を待たずに受診してください。

まずは婦人科が入口になることが多い

更年期の不調は、婦人科や更年期外来、女性外来が入口になることが多いとされています。どこに行けばよいか迷ったときの考え方は更年期の不調は病院の何科?で整理しています。初診で何を聞かれるのか不安な方は、婦人科の初診で何を聞かれる?もあわせて読んでおくと、当日の緊張がやわらぐかもしれません。

よくある質問(FAQ)

Q. 受診前に「HRTにするか漢方にするか」を決めていくべきですか?

いいえ、決めていく必要はありません。実際には、問診や必要に応じた検査をふまえて医師が提案し、相談しながら決めていく流れが一般的です。受診前に準備しておくとよいのは、治療法の選択よりも「どの症状にいつから、どれくらい困っているか」の情報です。希望や不安(たとえば「ホルモンの薬には抵抗がある」など)があれば、それも率直に伝えて大丈夫です。

Q. 漢方のほうが体にやさしくて安全、と考えてよいですか?

「自然由来だから安全」と単純に考えるのは避けたほうがよいとされています。漢方薬にも体質との相性や副作用、飲み合わせの注意があります。逆に、HRTが誰にとっても危険というわけでもありません。どちらにも向き・不向きと注意点があるため、体質や既往歴をふまえた医師の判断が欠かせません。

Q. 市販の漢方薬から試してみるのはどうでしょうか?

手に入りやすい選択肢ではありますが、体質に合うものを自分で見きわめるのは簡単ではありません。購入する際は薬剤師に相談し、体調に変化を感じたら中止して相談してください。しばらく試しても症状が変わらない、あるいは日常生活に支障が出ている場合は、医療機関での相談に切り替えることをおすすめします。市販薬やサプリとの付き合い方は今後の記事でも取り上げていく予定です。

Q. どのくらい続ければ「合っている・合っていない」がわかりますか?

症状や治療法によって異なり、一律には言えません。数週間ごとに受診しながら経過を見ていくのが一般的とされています。判断の材料になるのは症状の変化ですので、始めた日と、その後の症状の出方を記録しておくと、医師との相談がスムーズになります。

まとめ

HRTと漢方は、どちらが優れているというものではなく、体へのアプローチのしかたが違う選択肢です。あらためて要点を整理します。

  • HRTは減っていくエストロゲンをおぎなう考え方、漢方は体質に合わせて全体のバランスを整える考え方とされています
  • 変化を感じるまでの時間や、どんな症状に用いられやすいかには傾向の違いがありますが、感じ方には大きな個人差があります
  • 更年期障害と診断されれば、どちらも保険が適用されるのが一般的とされています
  • 併用も、途中での切り替えも可能です。「一度決めたら変えられない」ものではありません
  • 選ぶ材料になるのは、あなたがいま何にどれくらい困っているか。記録があると、その情報が正確に伝わります

どちらを選ぶかを一人で背負い込まなくて大丈夫です。あなたがすることは、つらさをそのまま持って行くこと。決めるのは、そのあとで医師と一緒にで十分です。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療を目的とするものではありません。特定の治療法や薬の効果を保証するものでもありません。症状が続く場合や気になる場合は、医療機関にご相談ください。

【参考情報源】厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」基本集計結果(2022年)/厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト『女性の更年期に関する意識の実態』調査/日本女性医学学会/公益社団法人 女性の健康とメノポーズ協会/厚生労働省 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ

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この記事を書いた人

更年期ゆらぎ記録アプリ「ゆらぎとわたし」の運営・編集担当。「不調の波を、ひとりで抱え込まない」を合言葉に、30〜50代の女性が自分の体調とやさしく向き合えるよう、記録・セルフチェック・気圧予報などの機能づくりと情報発信に取り組んでいます。医療の専門家ではありませんが、公的機関や学会の情報をもとに、受診の助けになる正確でやわらかい情報をお届けすることを大切にしています。

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