「運動したほうがいいのはわかっているけれど、体がついてこない」。更年期の時期に入ってから、そんなふうに感じている方は少なくありません。以前と同じつもりで動いたのに翌日ぐったりしてしまったり、そもそも出かける気力がわかなかったり。「怠けているわけじゃないのに」ともどかしい気持ちになることもあると思います。
一方で、健診のたびに「少し運動を」と言われたり、体重や体型の変化が気になったりして、何かを始めなければという焦りだけが積み重なっていく。そんな状態で無理に張り切って始めると、数日で疲れてやめてしまい、「やっぱり続かなかった」と自分を責める材料が増えてしまうこともあります。
この記事では、更年期の時期に運動が大切とされる理由をやさしく整理したうえで、体調に波があっても取り入れやすい運動の種類と、無理なく続けるための工夫を紹介します。「がんばって毎日やる」ことではなく、「調子に合わせて調整しながら細く長く続ける」という視点でまとめました。今日から少しずつ、自分に合うペースを見つけていくための材料にしていただければと思います。
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更年期に運動がすすめられるのはなぜ?

更年期は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌がゆらぎながら減っていく時期にあたります。エストロゲンは、生殖にかかわるはたらきだけでなく、骨や血管、脂質の代謝、自律神経のはたらきなど、体のさまざまな部分と関係していると考えられています。その量が変化していく過程で、これまでとは違う不調を感じる方が多いとされています。
体を動かすことは、この時期に起こりやすい変化と付き合っていくうえで、土台になる習慣のひとつとして位置づけられています。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、成人に対して、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上に相当)、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、そして筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています。あわせて、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意することも挙げられています。
ただし、同じガイドのなかで「個人差等をふまえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」「今よりも少しでも身体を動かす」という方向性も示されています。つまり、示された目安は「これができなければ意味がない」というラインではなく、あくまで目指す方向を示したものだということです。体調に波がある更年期の時期には、この「調整してよい」という部分がとても大切になります。
運動は「症状を消すための手段」ではありません
ここで前もってお伝えしておきたいのは、運動をすれば更年期の症状がなくなる、という性質のものではないということです。運動によって体調が整いやすくなったと感じる方もいれば、あまり変化を感じない方もいます。効果の感じ方には大きな個人差があるとされています。
そのため、この記事では「運動で症状を治す」という考え方ではなく、「体を動かす習慣が、この時期の体を支える土台のひとつになる」という捉え方でお伝えしていきます。うまくいかない日があっても、それは失敗ではありません。
更年期の体に起こる変化と、体を動かすことのかかわり
更年期の時期には、体の中でいくつかの変化が同時に進んでいくとされています。それぞれと運動との関係を、順に見ていきます。
筋肉量と代謝の変化
加齢にともなって筋肉量は少しずつ減っていくといわれています。筋肉が減るとエネルギーを使う量も変わってくるため、食べる量が変わらなくても体重や体型が変化しやすくなると考えられています。「食事は前と同じなのに増えてきた」と感じる背景には、こうした変化が関係していることがあります。この点については、更年期に太りやすくなる背景と体重との向き合い方もあわせてご覧ください。
骨にかかわる変化
エストロゲンは骨の代謝にもかかわっているとされ、閉経前後は骨の状態が変化しやすい時期といわれています。歩くことや、自分の体重を支える動きは、骨に適度な刺激を与える活動として知られています。将来のために今から少しずつ体を動かしておくという考え方は、この時期にとって意味のあるものといえます。
気分や睡眠のゆらぎ
更年期の時期には、気分の波や寝つきの悪さを感じる方も多くいます。日中に体を動かして生活のリズムに強弱をつけることは、こうした部分にも良い方向にはたらくことがあるとされています。ただし、これも個人差が大きく、必ず改善するというものではありません。眠りについて気になっている方は、更年期に眠れないときの原因とセルフケアもあわせて参考にしてみてください。
関節や体のこわばり
朝起きたときに手がこわばる、動かしはじめが痛いといった感覚を訴える方もいます。こうした状態のときは、強い負荷をかける運動よりも、ゆっくり関節を動かすような内容のほうが取り入れやすいことがあります。関節の不調が気になる場合は、更年期の関節痛・手のこわばりの背景とセルフケアもご覧ください。
無理なく続けやすい運動の種類

「運動」と聞くとジムやランニングを思い浮かべて身構えてしまいがちですが、実際にはもっと幅があります。ここでは、体調に波があっても取り入れやすいものを中心に紹介します。
ウォーキング — いちばん始めやすい選択肢
特別な道具も場所も要らず、その日の調子に合わせて時間を短くも長くもできるのがウォーキングの良いところです。始めるときは、いきなり長い距離を目指すのではなく、10分程度から様子を見るのがおすすめです。「少し息が弾むけれど、話せるくらい」の速さが目安になります。
買い物や通勤の移動を少し遠回りにする、エスカレーターの代わりに階段を使うといった形で、生活のなかに組み込んでしまうのも続けやすい方法です。まとまった時間が取れない日は、10分を数回に分けても構いません。「まとめて60分やらないと意味がない」と考える必要はないとされています。
筋力トレーニング — 週に2〜3日、軽い負荷から
筋力トレーニングというと重いものを持ち上げる姿を想像するかもしれませんが、自分の体重を使った動きからで十分です。いすに座って立ち上がる動作をゆっくりくり返す、壁に手をついて腕立ての姿勢をとる、といった内容でも負荷になります。
特に、太ももやお尻など体の大きな筋肉を使う動きは、日常の動作のしやすさにつながりやすいといわれています。回数を多くこなすよりも、動作をゆっくり丁寧に行うほうが取り組みやすく、けがのリスクも下げやすくなります。翌日に強い筋肉痛が残るようなら、負荷が大きすぎたサインかもしれません。
ストレッチ・ヨガ — 調子が良くない日でも
体を大きく動かす元気がない日でも、床に座って肩や背中を伸ばすくらいならできる、という日はあると思います。ストレッチは、体を動かすことのハードルを下げてくれる存在です。寝る前や、お風呂上がりなど、時間を決めておくと習慣にしやすくなります。
ヨガやピラティスのように、呼吸を意識しながらゆっくり動く内容も、更年期の時期に取り入れている方が多い選択肢です。動画などを利用する場合は、初心者向け・シニア向けとされている、負荷の軽いものから試すと安心です。
水中運動・ラジオ体操など
膝や腰への負担が気になる方には、水中を歩く運動が向いていることもあります。また、ラジオ体操のように全身をひととおり動かす内容は、短時間で終わり、順番を覚えなくてよいという点で続けやすさがあります。何を選ぶかよりも、「これなら自分は続けられそう」と思えるかどうかを基準にしてみてください。
運動を始めるときに気をつけたいこと
体を動かすことは基本的に体にとって良い習慣とされていますが、更年期の時期には次のような点に気をつけると、無理なく取り組みやすくなります。
いきなり量を増やさない。久しぶりに運動を始めるとき、最初の数日は気持ちが高まっているぶん、つい張り切ってしまいがちです。しかしその反動で疲れが出て中断してしまうことが多いため、「もう少しできそう」と思うところでやめておくくらいが、結果的に長続きします。
暑い時期・寒い時期は環境を選ぶ。ほてりや発汗が出やすい時期には、暑い時間帯の屋外運動は負担になりやすくなります。朝夕の涼しい時間帯を選ぶ、室内で行うなど、環境のほうを調整してみてください。水分をこまめにとることも大切です。
持病がある場合は先に相談を。血圧や心臓、膝や腰などに持病がある方、治療中の病気がある方は、運動の内容や強さについて、かかりつけの医療機関にあらかじめ相談しておくと安心です。運動中に胸の痛みや強い息切れ、めまいなどを感じたときは、その場で中止してください。
痛みを我慢しない。「がんばれば慣れる」と考えて痛みを押して続けると、けがにつながることがあります。痛みが出たら、その日はそこまでにして、翌日以降の様子を見るようにしましょう。
続けるための工夫

更年期の時期に運動を続けるうえでいちばんの壁になるのは、運動そのものの難しさよりも、「調子に波があること」だと感じている方が多いようです。ここでは、その波とうまく付き合うための工夫をいくつか紹介します。
「できた日」の基準を思い切り下げておく
30分歩けた日だけを「できた日」にすると、達成できない日が続いて気持ちが折れやすくなります。「玄関を出た」「ストレッチを3分した」でも○にする、というくらいまで基準を下げておくと、続いている実感を保ちやすくなります。ゼロの日を減らすことのほうが、1回の量よりも大切だという考え方です。
準備のハードルを物理的に下げる
スニーカーを玄関の出しやすい場所に置いておく、動きやすい服を1組決めておく、ヨガマットを敷いたままにしておく。こうした「準備をしなくてよい状態」を作っておくと、始めるまでの心理的な負担が下がります。始めてしまえば続けられるけれど、始めるまでが重い、という方には特に効果的です。
時間帯をあらかじめ決めておく
「時間ができたらやる」だと、たいてい時間はできません。朝食の後、夕方の買い物のついで、寝る前の10分など、既にある習慣とセットにしてしまうと、思い出す手間が減ります。ただし、決めた時間にできなかったからといって、その日を丸ごと諦める必要はありません。
ひとりで抱え込まない
家族や友人と一緒に歩く、地域の教室に参加するなど、人とのつながりがあると続きやすくなることもあります。反対に、人に合わせるのが負担になる方は、ひとりで気楽に続けられる形のほうが向いています。どちらが良い悪いではなく、自分がどちらのタイプかを知っておくことが役に立ちます。
他の生活習慣と一緒に考える
運動だけを切り離してがんばるよりも、食事や睡眠、休み方といった生活全体のなかで考えるほうが、結果的に無理が少なくなります。食事の面が気になる方は更年期の食事で意識したい栄養のヒントを、生活習慣全体を見直したい方は更年期のセルフケアで整えたい5つの生活習慣もあわせてご覧ください。
運動と体調を記録して、自分に合うペースを見つける

「今日は動けた」「今日はだめだった」を、その日の気分だけで振り返ると、どうしてもできなかった日のほうが強く印象に残ります。実際には動けている日のほうが多いのに、「最近まったく続いていない」と感じてしまうのは、よくあることです。
そこで役に立つのが、記録です。歩いた日、体を動かした内容、そしてその日の体調を一緒に残しておくと、後から振り返ったときに客観的な事実が見えてきます。「思っていたより続いていた」とわかるだけでも、続ける力になります。
記録すると見えてくること
数週間ぶんの記録がたまってくると、いくつかの傾向が浮かび上がってくることがあります。たとえば「動いた日の翌日は寝つきが良い気がする」「天気が崩れる前は体が重くて動けないことが多い」「生理前の数日は無理をすると響く」といったことです。
こうした傾向がわかると、「今日は休む日」という判断を、罪悪感ではなく根拠を持って下せるようになります。がんばる日と休む日の見分けがつくことは、続けるうえでとても大きな助けになります。
受診のときにも役立ちます
記録は、医療機関を受診するときの材料にもなります。診察室では限られた時間のなかで症状を説明することになりますが、「なんとなく調子が悪い」よりも、いつ・どんな症状が・どのくらいの頻度で出ていたかを示せたほうが、状況が伝わりやすくなります。記録のつけ方については更年期の症状記録の続けやすい書き方で詳しく紹介しています。
また、今の心と体の状態をざっと確かめたいときには、SMI(簡略更年期指数)による更年期のセルフチェックを使ってみるのもひとつの方法です。運動を始める前と数か月後で比べてみると、変化の有無を振り返る手がかりになります。
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歩いた日・休んだ日を、その日の症状といっしょにワンタップで記録できます。SMIスコアの推移と7日先までの気圧予報を並べて見ることで、「動きやすい日」と「無理をしないほうがいい日」の傾向が少しずつ見えてきます。たまった記録は、受診時にそのまま医師に見せられる1枚のサマリーにまとめられます。記録・セルフチェック・気圧予報はすべて無料。
体調に波があるとき、休むかどうかの考え方
更年期の時期は、日によって体の重さがまったく違うことがあります。「動いたほうが良いと言われているのに、今日はとても無理」という日に、どう考えればよいのでしょうか。
基本的な考え方としては、休むことも計画のうちと捉えるのが現実的です。無理をして動いた日の翌日にまったく動けなくなるより、軽くして続けたほうが、1週間や1か月の合計では動けている量が多くなることがあります。
迷ったときは、「今日はやる/やらない」の二択ではなく、「量を減らす」という三つ目の選択肢を思い出してみてください。30分歩くつもりだった日に5分だけ外に出る、筋トレの代わりにストレッチだけにする。こうした置き換えができると、途切れずに済みます。
一方で、疲れやだるさが数週間以上ずっと続いていて、休んでも回復した感じがしないときは、運動量の調整だけの問題ではないこともあります。強い倦怠感が続く場合については、更年期に疲れやすい・だるいときの原因とセルフケアも参考にしつつ、医療機関への相談も検討してみてください。
こんなときは医療機関に相談を
運動は生活のなかで取り組める習慣ですが、体からのサインには注意が必要な場合もあります。次のようなときは、自己判断で続けずに医療機関に相談してください。
- 運動中や運動後に、胸の痛み・強い動悸・息苦しさを感じる
- 立ちくらみやめまいで転びそうになったことがある
- 関節や腰の痛みが強く、日常の動作にも支障が出ている
- 休んでも回復しない強い疲労感が数週間以上続いている
- 気分の落ち込みが強く、何をする気にもなれない状態が続いている
つらい症状が続く場合や、急に強い症状が出た場合は、早めに医療機関へ相談してください。更年期に関する不調は婦人科や更年期外来が相談先になることが多いですが、症状によっては内科や整形外科が適していることもあります。どこに相談すればよいか迷ったときは、まずかかりつけの医療機関に伝えてみるのもひとつの方法です。
また、更年期の症状を自覚していても医療機関を受診していない人は少なくありません。厚生労働省が2022年に公表した調査では、更年期症状を自覚しながら受診していない女性は40代で81.7%、50代で78.9%にのぼると報告されています。ひとりで抱え込まず、相談してよいことなのだと知っておいていただければと思います。
よくある質問(FAQ)
毎日運動しないと意味がありませんか?
毎日でなければ意味がない、ということはないとされています。厚生労働省のガイドでも筋力トレーニングは週2〜3日が目安として示されており、体を休める日があること自体は自然なことです。大切なのは、完全にゼロの状態が長く続かないようにすることだと考えられています。
更年期の症状がつらいときも運動したほうがよいですか?
体調が悪い日に無理をする必要はありません。つらいときは休んでよく、回復してきたら軽い内容から再開する、という進め方で構わないとされています。ただし、症状が強い状態が続いている場合は、運動の可否も含めて医療機関に相談することをおすすめします。
どのくらいで変化を感じられますか?
感じ方には大きな個人差があり、はっきりした期間をお伝えすることはできません。数週間で体の軽さの変化に気づく方もいれば、しばらく変化を感じない方もいます。目に見える変化を急ぐよりも、記録を残しておいて後から振り返るほうが、小さな変化には気づきやすくなります。
ホットフラッシュがあるときに運動しても大丈夫ですか?
一律に良い・悪いと言えるものではありませんが、ほてりや発汗が出やすいときは、涼しい時間帯や室内を選ぶ、こまめに水分をとる、脱ぎ着しやすい服装にするといった工夫をしている方が多いようです。症状の程度によっては控えたほうがよい場合もあるため、気になる場合は医療機関に相談してください。
運動と食事、どちらから始めるべきですか?
どちらが先ということはありません。両方を一度に変えようとすると負担が大きくなるため、自分にとって取りかかりやすいほうから始めるのが現実的です。片方が習慣になってきてから、もう片方に手をつけるという順番でも構いません。
まとめ
更年期の時期の運動は、「症状をなくすため」のものではなく、「変化していく体を支える土台のひとつ」として捉えると、気持ちが少し楽になります。厚生労働省のガイドが示す目安は方向を教えてくれるものであり、そこに届かない日があっても、今より少し体を動かせたならそれで十分です。
取り入れやすいのは、ウォーキング・軽い筋力トレーニング・ストレッチといった、時間や強さを自分で調整できる内容です。続けるコツは、「できた日」の基準を下げること、準備のハードルを物理的に下げること、そして休む日を計画のうちに入れておくことにあります。
そして、動いた日と体調をあわせて記録しておくと、自分が動きやすい日の傾向や、無理をしないほうがいい日のサインが少しずつ見えてきます。その記録は、受診のときに状況を伝える材料にもなります。今日いきなり大きく変えなくて構いません。玄関を出た、3分伸びをした。そこから始めていきましょう。
🌸 まずは今日の1日から、記録を始めてみませんか|ゆらぎとわたし
今日から動いた日と体調を残しておくと、数週間後には「自分がどんな日に動きやすいのか」という傾向が見えてきます。続けられているという事実が目に見えることは、それだけで続ける力になります。たまった記録は、受診のときにそのまま医師へ見せられる1枚にまとめられます。無料ではじめられます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療を目的とするものではありません。感じ方や体調の変化には個人差があります。症状が続く場合や気になる場合、また持病があり運動の可否に不安がある場合は、医療機関にご相談ください。
【参考情報源】
・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(推奨事項:歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上/息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上/筋力トレーニングを週2〜3日)
・厚生労働省「女性の健康に関する実態調査」(2022年公表。更年期症状を自覚しながら受診していない女性は40代81.7%・50代78.9%)

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