静かな部屋にいると、耳の奥で「キーン」という高い音が聞こえる。飛行機に乗ったあとのように、耳がふさがった感じが抜けない。周りの人には聞こえていないその音が、自分にだけずっと鳴り続けている——40代・50代の女性から、そんな声を聞くことがあります。
耳の不快感は、痛みのようにはっきりしたものではありません。だからこそ「気のせいかもしれない」「疲れているだけかも」と、つい後回しにしてしまいがちです。でも、寝る前の静かな時間に音が大きく感じられて眠りにくかったり、会話に集中できなかったりすると、じわじわと日常の負担になっていきます。
更年期の時期にほてりや動悸、めまいなどと一緒に耳の不快感が気になりはじめ、「これも更年期と関係あるのだろうか」と検索してこのページにたどり着いた方もいるかもしれません。この記事では、更年期に耳鳴りや耳のつまり感が気になりやすいとされる背景と、日常でできる工夫、そして耳鼻咽喉科など他の診療科への相談を考える目安を、できるだけやさしく整理していきます。
なお、耳の症状には更年期以外の原因が隠れていることもあります。「更年期だから仕方ない」と決めつけず、気になる変化があるときは早めに医療機関に相談することが大切です。その判断の目安も、記事の後半でくわしくお伝えします。
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更年期の耳鳴り・耳のつまりって、どんな感じ?

ひとくちに「耳鳴り」といっても、聞こえ方は人によってかなり違います。まずは、どんな感じ方があるのかを言葉にしてみましょう。自分の状態を言葉にできると、あとで医師に伝えるときにも役立ちます。
音の感じ方はさまざま
よく語られるのは「キーン」という高く細い音ですが、ほかにも「ジー」というセミの声のような音、「ボー」という低い音、「ザーッ」という潮騒のような音、心臓の拍動に合わせて「ドクドク」と響く音など、いろいろな表現があります。片方の耳だけのこともあれば、両耳、あるいは頭の中央で鳴っているように感じることもあります。
音の大きさも一定とは限りません。日中は気にならないのに、夜、部屋が静まりかえると急に存在感が増す。あるいは、忙しくしている間は忘れていられるのに、ひと息ついた瞬間に「あ、まだ鳴っている」と気づく。そんな波のある感じ方をされる方も少なくありません。
「耳がつまる」という感じ方
音そのものではなく、耳が塞がったような感覚が気になる場合もあります。「膜が一枚張っているみたい」「エレベーターで急に高いところへ上がったときのような感じ」「自分の声が頭の中で響く」といった表現をされることがあります。これは耳閉感(じへいかん)と呼ばれることもある感覚です。
耳鳴りと耳のつまり感は同時に起こることもあれば、どちらか一方だけのこともあります。また、日によって入れ替わるように感じる方もいます。
ほかの不調と一緒に出ることも
耳の不快感は、単独で出るとは限りません。更年期のめまい・ふらつきや更年期の頭痛と重なって気になりだすこともありますし、肩や首のこわばり、眠りの浅さと一緒に語られることもあります。更年期の時期に感じやすい不調全体については、更年期の症状一覧もあわせてご覧ください。
更年期に耳鳴りが起こりやすいとされる背景

「なぜ、この時期に耳の不快感が気になるのだろう」と思われるかもしれません。耳鳴りの感じ方には個人差が大きく、原因を一つに特定できないことも多いのですが、一般的に語られている背景をいくつか整理してみます。
女性ホルモンの変動と自律神経のゆらぎ
更年期は、卵巣のはたらきが変化してエストロゲン(女性ホルモン)の分泌が大きくゆらぐ時期とされています。このゆらぎは、体温や血圧、心拍などを無意識に調整している自律神経のはたらきにも影響すると考えられています。自律神経のバランスが乱れると、体のさまざまな部分で「いつもと違う感じ」が生じやすくなり、耳のまわりの感覚もそのひとつとして語られることがあります。
ただし、更年期のホルモン変動が耳鳴りを直接引き起こすと断定できるわけではありません。「そういう時期に気になりやすくなる方がいる」という程度に受け止めておくのが適切です。
血流や筋肉の緊張とのかかわり
耳のまわりには細かい血管が集まっています。肩や首のこわばりが強いとき、あるいは冷えが続いているときに、耳の感じ方が変わったように思えることがあります。長時間のデスクワークやスマートフォンの使用で首まわりが固まっていると、そのつらさが耳の不快感と重なって意識されやすいのかもしれません。
睡眠不足・ストレスとの重なり
眠りが浅い日が続くと、体の感覚に対する敏感さが増すことがあります。同じ大きさの音でも「今日はやけに気になる」と感じるのは、耳そのものが変わったというより、注意の向き方が変わっているためかもしれません。ストレスが重なっている時期も同じで、心の余裕が少ないほど、小さな不快感が大きく感じられやすくなります。
更年期の眠りの悩みについては、更年期に眠れない夜のセルフケアもあわせてご覧ください。
加齢による聞こえの変化
年齢を重ねるにつれて、高い音が聞き取りにくくなっていくことは、多くの人に起こる自然な変化とされています。聞こえの範囲がわずかに変わることで、それまで気づかなかった耳鳴りが目立って感じられるようになる、という説明がされることもあります。更年期の年代と、聞こえの変化がはじまる年代が重なるため、両方の影響が混ざっている可能性も考えられます。
耳鳴り・耳のつまりが気になりやすい人・タイミング
「どんなときに気になりやすいか」を知っておくと、必要以上に不安にならずにすむことがあります。ここでは、よく語られるタイミングを挙げてみます。あくまで傾向であり、当てはまらない方もいます。
- 夜、静かになったとき:周囲の生活音が消えると、相対的に耳の中の音が目立ちます。寝つけないときに気になりやすい理由のひとつです。
- 疲れがたまった日の夕方以降:一日の終わりに向けて、体の感覚が敏感になったと感じる方がいます。
- 睡眠が足りない翌日:眠りが浅かった翌日に強く感じる、という声はよく聞かれます。
- 気持ちが張りつめているとき:仕事や家庭で緊張が続く時期に、耳の不快感が前面に出てくることがあります。
- 肩や首がこわばっているとき:長時間同じ姿勢でいたあとに気になりだすことがあります。
- 気圧が大きく変わる日:天気の崩れる前後に体調全体が重く感じられ、耳の感覚もその一部として意識されることがあります。
反対に、外に出て人と話しているとき、音楽が流れているとき、家事に集中しているときなど、「気づいたら忘れていた」という時間があるという方も多くいます。ずっと同じ強さで鳴り続けているわけではない、という点は、少し安心できる材料かもしれません。
今日からできるセルフケアのヒント

耳鳴りや耳のつまり感を「消す」ための方法をここでお伝えすることはできませんが、つき合いやすくするための工夫としてよく語られているものを紹介します。無理なくできそうなものから、ひとつだけ試してみてください。
静けさを「ほどよい音」で埋める
完全な無音の環境では、耳鳴りの存在感が増しやすいといわれます。眠る前に小さな音量で音楽や環境音を流したり、換気扇やサーキュレーターの音を利用したりして、「静かすぎない状態」をつくる方法が知られています。音量は、耳鳴りを打ち消そうとするほど大きくせず、意識がそちらに少し向く程度にとどめるのがよいとされています。
首・肩まわりをゆるめる
肩をすくめて5秒キープしてからストンと落とす、首をゆっくり左右に倒す、蒸しタオルを首の後ろにあてる。こうした簡単なケアで首まわりの緊張がやわらぐと、耳のあたりの感じ方が変わったように思えることがあります。痛みが出るほど強く伸ばしたり回したりせず、心地よい範囲でおこないましょう。
眠りのリズムを整える
寝る時刻と起きる時刻をできるだけ一定にする、寝る前1時間は画面の明るい光を避ける、寝室を少し暗めにする。眠りの質が安定すると、体の感覚の敏感さもゆるやかになっていくことがあります。眠れない日が続いてつらいときは、無理に「眠らなければ」と考えず、横になって休むだけでもよい、と考えてみてください。
カフェイン・アルコール・喫煙との距離を見直す
夕方以降のコーヒーや、寝酒としてのアルコールが眠りを浅くしていることがあります。「これが原因」と決めつける必要はありませんが、しばらく量や時間帯を変えてみて、感じ方に違いがあるかどうかを観察してみるのはひとつの方法です。喫煙している方は、血流への影響という点から見直しの対象になることがあります。
「気にしない」を目指しすぎない
「気にしなければ楽になる」と言われても、気にしないでいることほど難しいものはありません。むしろ、「今日は鳴っているな」と事実として受け止め、そのうえで別のことに手を動かしていく——そんな距離のとり方のほうが、結果として楽になったという声もあります。うまくいかない日があっても、自分を責めないでください。
記録・見える化のすすめ|「なんとなく」を形にする
耳の不快感がやっかいなのは、外から見えないことです。血圧のように数字で示せず、レントゲンにも写りません。「なんとなく続いている」という状態のままだと、自分でも本当につらいのか分からなくなり、家族にも医師にも伝えにくくなってしまいます。
そこで役に立つのが記録です。むずかしく考える必要はありません。カレンダーに「◯」を付けるだけでも十分です。おすすめしたい項目をいくつか挙げてみます。
- あった/なかった:まずはこれだけでも構いません。頻度が見えてきます。
- 強さ:3段階(気にならない/少し気になる/つらい)くらいの粗さで十分です。
- 時間帯:朝・昼・夜のどこで気になったか。
- そのときの状況:眠れなかった、忙しかった、肩がこっていた、雨だった、など一言。
- ほかの症状:ほてり、めまい、頭痛など、同じ日に感じたこと。
2〜3週間分たまると、点だった記録が線になってきます。「週の後半に多い」「眠りが浅かった翌日に出やすい」「天気が崩れる前日に重なりやすい」といった、自分だけの傾向が見えてくることがあります。傾向が分かると、あらかじめ予定をゆるめておくなどの備えもしやすくなります。
記録を続けるコツや、書き方のテンプレートについては、更年期の症状記録のつけ方でくわしく紹介しています。また、いまの心と体の状態をひととおり確かめたいときは、SMI(簡略更年期指数)を使ったセルフチェックから始めてみるのもおすすめです。
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気圧・天気とのかかわりについて
「雨が降る前に耳がつまる感じがする」「台風が近づくと音が大きく感じる」——そんなふうに、天気と耳の感覚を結びつけて話される方がいます。
気圧の変化と体調の関係については研究が進められている段階で、耳鳴りとの関係がはっきり証明されているわけではありません。ただ、気圧の変化を感じ取るセンサーが耳の奥(内耳)にあると考えられていることから、気圧が大きく動く日に耳まわりの感覚が変化したように思える、という説明がされることがあります。
大切なのは、「関係があるかどうか」を頭で考えるより、自分の場合はどうなのかを記録で確かめてみることです。気圧の変化が大きい日に印を付けておき、耳の不快感の記録と並べてみる。数週間続けてみて重なりが見えなければ、少なくとも自分にとっては天気の影響は小さいのかもしれない、と切り分けられます。
気圧と更年期の不調の見分け方については、気象病と更年期の不調の見分け方でくわしく整理しています。
受診の目安|何科に相談すればいい?

ここがいちばんお伝えしたい部分です。耳の症状は、更年期以外の原因で起こっていることがあります。自己判断で様子を見続けるのではなく、次のような場合はできるだけ早く医療機関に相談してください。
早めに耳鼻咽喉科への相談を考えたいサイン
- 急に片方の耳の聞こえが悪くなった:短時間のうちに聞こえの変化が起きた場合は、早めの受診がすすめられています。
- 耳鳴りに強いめまいや吐き気をともなう
- 耳の痛み、耳だれ、発熱がある
- 脈打つような音が続いている
- 片耳だけの症状が続き、日ごとに強くなっている
- 会話が聞き取りにくく、日常生活に支障が出ている
これらに当てはまる場合は、まず耳鼻咽喉科での確認が基本になります。聴力検査などで耳そのものの状態を調べたうえで、必要に応じて次の相談先が案内されます。
耳の検査で「異常なし」と言われたら
耳鼻咽喉科で調べても特に異常が見つからず、それでもほてりや発汗、気分の落ち込み、生理の乱れなど、ほかの不調も一緒に続いている場合は、婦人科や更年期外来に相談してみるという選択肢があります。ホルモンの状態を含めて、体全体の視点から見てもらえることがあります。
どの診療科に行けばよいか迷ったときは、更年期の不調は病院の何科?相談先の選び方を参考にしてみてください。
受診をためらってしまう方へ
厚生労働省が2022年に公表した調査では、更年期の症状を自覚していても医療機関を受診していない女性は40代で81.7%にのぼると報告されています。また、中等度以上の症状がありながら誰にも相談していない方が約7割いるとも指摘されています(厚生労働省スマート・ライフ・プロジェクト)。「このくらいで病院に行っていいのだろうか」とためらう気持ちは、決してめずらしいものではありません。
けれども、耳の症状は原因を確かめておくことに意味があります。「更年期のせいだと思っていたけれど、別の理由だった」と分かることもあれば、「調べても異常はない」と分かるだけで気持ちが軽くなることもあります。相談すること自体が、ひとつのセルフケアだと考えてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 更年期が終われば耳鳴りもなくなりますか?
A. 一概には言えません。更年期の時期が過ぎて体調が落ち着くにつれて気にならなくなったという方もいれば、そうでない方もいます。耳鳴りの感じ方には個人差が大きく、原因も一つとは限らないためです。「いつか自然に消える」と待ち続けるより、気になる状態が続いているなら一度医療機関で相談しておくほうが安心です。
Q. 市販のサプリメントで耳鳴りは改善しますか?
A. 特定のサプリメントや市販薬が耳鳴りに効くと断定できる根拠は示されていません。健康食品はあくまで食品であり、症状の治療を目的としたものではありません。ほかにお薬を飲んでいる場合は飲み合わせの問題もありますので、取り入れる前に医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
Q. 耳鳴りとめまいが一緒に起こるのはなぜですか?
A. 耳の奥にある内耳は、聞こえとバランスの両方にかかわる場所とされています。そのため、耳鳴りとめまいが同時に語られることがあります。ただし、めまいには耳以外が関係する場合もあり、原因を自己判断で決めることはできません。強いめまいをともなうときは早めに医療機関を受診してください。
Q. 家族に「気にしすぎ」と言われてつらいです
A. 見えない不調は、周りの人には伝わりにくいものです。「気にしすぎ」という言葉は、多くの場合、悪気があって出たものではなく、どう受け止めていいか分からないことの裏返しでもあります。そんなときこそ、記録が助けになります。「今月は20日のうち14日、夜に音が気になっていた」という形で示せると、感覚の話が事実の話に変わり、伝わりやすくなります。
まとめ
更年期の時期に耳鳴りや耳のつまり感が気になりはじめる方は少なくありません。ホルモンの変動にともなう自律神経のゆらぎ、首や肩の緊張、眠りの浅さ、そして加齢による聞こえの変化——いくつかの要素が重なって、そう感じられるようになるのではないかと考えられています。
今日からできることとしては、静かすぎない環境をつくること、首や肩をゆるめること、眠りのリズムを整えること、そして記録を残すことが挙げられます。とくに記録は、自分の傾向をつかむだけでなく、医師や家族に伝えるときの手がかりにもなります。
そして何より大切なのは、急な聞こえの変化や強いめまい、耳の痛みなどがあるときは、更年期のせいだと決めつけずに早めに耳鼻咽喉科などの医療機関に相談することです。原因をはっきりさせておくことは、安心して過ごすための土台になります。
耳の奥で鳴っている音は、あなたにしか聞こえません。だからこそ、ひとりで抱え込まずに、記録という形で外に出してみてください。それが、次の一歩を選ぶための材料になります。
🌸 今日の「キーン」を、ひとつ書き残すところから|ゆらぎとわたし
今日1日ぶんの記録は、たった数秒で終わります。それが2〜3週間たまると、「週の後半に多い」「眠りが浅い翌日に出やすい」といった自分だけの傾向が見えてきます。診察室で言葉に詰まってしまいがちなつらさも、記録があれば医師にそのまま渡せる1枚になります。無料ではじめられます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療を目的とするものではありません。症状の感じ方には個人差があり、ここで紹介した内容がすべての方に当てはまるわけではありません。症状が続く場合や気になる場合は、医療機関にご相談ください。
【参考情報源】厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」(2022年)/厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト

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